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足立学園中学・高等学校「志共育」の実践

【長い歴史と変革:足立学園の志共育の起源とは?】

Q:足立学園はもともと、どのような課題を持っておられましたか?また、その解決手段として、なぜ志共育を選ばれたのですか?

私は、当学園に勤めて約30年になります。

30年前の足立学園は、大学進学の実績を非常に重要視していました。また、学校の基本方針は全人教育です。学業だけではなく、個々の人間力をしっかりと向上させることについても重要視しておりましたので、それらの観点からも、学校は進学校としての方向性を模索し続けておりました。

約50年前、当学園の学力が低下し、経営が厳しい時期がありました。そこで、私たちの先輩方は学校を再建するため、大学の進学実績向上に焦点を当てることを決意しました。私が就職した時点では、この方向性が着実に進行していました。進学において、生徒たちを様々な大学に受験させ、合格実績の向上を求めておりました。また、他の学校と同様に、東京大学や早稲田大学、慶應義塾大学などへの合格者数を競っておりました。当学園もこれに注力しておりましたので、毎年、東京大学の合格者数や進学率の数値目標を掲げ、進学を奨励しておりました。この時代は、優れた進学実績を残している学校に多くの生徒が集まるようになっておりました。

また、当学園の周辺にも優れた進学実績を持つ学校が増加しました。こうした背景から、当学園の教育が進学志向のみに焦点を当てて良いのか?という疑問が当学園の校長である井上校長の中で芽生えました。これが、志教育の考案の端緒となりました。

井上校長は、大学進学そのものが最終目標として十分かどうかを疑問視し、大学進学後の生徒の進むべき道を考えました。校長は若者たちが社会に出てからどのように貢献できるのか?今後の日本の課題に対してどのような意識を持つべきなのか?という問題に焦点を当てました。これに基づいて、中学や高校の教育内容を再考し、志教育の方向性を打ち出すことに至りました。

志共育を選んだ理由は、当学園の教育理念にある、質実剛健・有為敢闘という言葉にあります。この理念は、飾り気のない真面目さと、心身ともに強くたくましい人間性を示すものであり、何をなすべきかを貫き通す有能な人材を育てることを強調しています。この校訓は、90年以上受け継がれています。現代社会では、自身の力を社会や人類に貢献するためにどのように活かすかが重要であり、井上校長はこの視点を基に、志を当学園内の教職員に伝え、取り組みを開始しました。これが、志共育の最初の端緒となりました。

【志共育がもたらす、生徒の自主性と進学志向の変革】

Q:志共育を導入する前と後で、どのような変化がありましたか?

まず第一に、生徒の自主性と主体性が目覚ましく発展したことが挙げられます。この変化は非常に明瞭です。活気に満ちた、楽観的な生徒が増加しました。生徒たちに志を追求してもらうきっかけとなったのは、松下政経塾の志探求プログラムを高校1年生で取り組んでもらったことです。その時、成基さんと出会い、中学1年生から志共育を始めるべきだという提案を受けました。5年ほどになりますが、多くの変化がありました。この期間に、中学入試で志入試をはじめ、さまざまな取り組みを行ってきました。その結果、志を持つ生徒たちが入学し、以前とは比べ物にならないほどの自主性と主体性を発揮しています。

以前は、当学園に入学することが唯一の目標で、それに向かって勉強する生徒が多かったのです。しかし、志を持つ生徒たちは異なります。例えば、医療不足に苦しむ国々への支援に貢献したいと考える生徒がいます。彼は、自身の目標と情熱を持っており、勉強や大学進学に対するモチベーションが異なります。それに対して、受験勉強のみを目指す生徒たちは、志を持つ生徒たちとは異なるモチベーションを持っていることが明らかです。進学実績を重視する時代には、私も化学の教員として、知識を詰め込んで教育することに注力しました。しかし、志を持つ生徒たちを育てるアプローチに変えたことで、生徒たち自身が学びたいという意欲が芽生えるようになりました。もちろん、教員としての抵抗もありました。以前は偏差値中心の進学指導でしたが、志共育を導入したことで、学生の個々の志を尊重し、それに合った大学選びや学習プランを提供するようになりました。

15年前、特別進学クラスの担任をしていた際には、保護者に対して、大学受験では最低10校受験するべきです!と伝えていました。その際、受験料を確保しておくように、保護者に勧めておりました。大学受験は10校ほどの受験が一般的で、受験料は30万から35万円がかかるのが当たり前であることを説明しました。当時、保護者は学校のサポートに協力的でした。

しかし、志共育を導入してからは、学校の役割が変わり、生徒たちが学校の卒業後に充実した人生を歩むためのサポートを提供する存在として位置づけられるようになりました。教え込むスタイルから、生徒たちが自分から学び、失敗と再チャレンジを通じて成長するアプローチへと変わりました。

教員もこの変化に徐々に適応しています。 例えば、偏差値60の学校に行きたいとしましょう。60を取れていたらよい。そのラインから自分の進学先を考えます。ですが、受験は1度きりのチャンスです。60よりも下の学校も受けておこうと。いわゆる滑り止めです。このような進路指導を受験生に勧めていました。しかし最近では、絶対に行きたくない学校や合格しても行かない予定の学校は、受験しない傾向にあります。なぜなら、自分には志がある、それに向かって努力している。その自信があるから、偏差値60以上の学校を目指す生徒が増えています。受けられる学校はすべて受けるという考えではなく、行きたい学校を受ける。なので、実際の合格者数は減少しています。当学園の教職員は、生徒が第一志望校に合格するために慎重に指導を行っています。

なお現在、第一志望合格率を受験予定の保護者に提示しようと考え、データを蓄積している状況です。私立ですので、そのような見せ方も今後できると考えています。

 

【生徒の心の軌跡をつなぐ ~教育の使命と意義~】

Q:志共育を導入されて、学校運営においてプラスになったことはありますか?

まず第一に私が感じているのは、教員の意識の変容です。これは当学園の重要な課題ですが、教員がどの方向に向かって生徒を指導しているのか?があります。進学や人間教育、クラブ活動など、多くの異なる要素が絡み合っており、当学園としては、校訓に従い、質実剛健・有為敢闘、社会に貢献し、誠実で人のためになる人材を育てていくことが求められています。しかし、この方針は時折揺らぎを見せていました。私自身も、最初に当学園の就職試験を受ける際、校訓の意味を理解しようとしました。”質実剛健”とは、健康で健やかであることを示しています。では、”有為敢闘”とは何か。インターネットの普及が進んでいなかった当時、辞書を探しても情報が得られませんでした。その意味を理解しようと非常に苦労しました。しかし当学園に就職後、諸先輩方から教えていただきました。”有為敢闘”とは、何かを成し遂げるために果敢に努力する精神であることがわかりました。現代においては、誠実で強靭で、優れた人材であり、他人のために尽力し、課題を最後まで達成する人材を育てること。これこそが志であると結びついたのです。そのため、志共育を通じて、生徒たちに志を持たせることが私たちのミッションだと考えています。校長だけでなく、教職員全員で共有できたことは非常に重要であると考えています。フォームの始まり例えば、実際の授業だけでなく、進路指導の担当者まで、全ての教職員が一貫したスタンスで指導できるようにするには、共有が不可欠です。私は中学校の副校長を務めていますが、中学校では一所懸命に志共育に取り組んでいます。しかし、高校に進学する段階で、志の意味が薄れることがないように心掛けています。中学入学から高校卒業までの間に、一貫して志共育を浸透させ、生徒たちが目指すべき方向性を明確にしました。これが有為敢闘を実現し、本当に役立つ人材を育成するという志とうまく結びつきました。

現在、井上校長は6年目を迎えています。着任した1年目から学校説明会において、志を強調しています。校長が志の重要性を繰り返し語ることで、成基総研の志講座を導入したり、中学生に志共育を取り入れたりしてきました。
これらの取り組みは、受験者数の増加につながり、学校全体の志向性を向上させました。


私は以前、広報部長を務めていた時期に受験者数が減少した経験があります。しかし、志共育を開始したことで、受験者数が回復し、プラスの方向に向かっています。志共育を取り入れた入試を導入する際、地域の塾の先生たちからは疑念の目で見られることもありました。志を書けた人を全員受け入れるわけではありませんが、学力だけでなく、生徒たちの持つポテンシャルを評価し、それを得点化する入試を導入した際、周囲からは疑念の声が上がりました。しかし、実際に志共育を求めて入学したいと願う子どもたちが多く現れています。これらの生徒たちが学校生活を牽引し、生徒主体の方針を形成し、志を持った仲間たちが入学してくる。これは、志の持続的な連鎖ではありませんが、子どもたちが望むことであり、私たちもその気持ちでいます。

先日、高校2年生と中学3年生の生徒が、志プレゼンテーション大会に出場するための練習を行っていました。彼らは、自身の志の根源について真剣に考えていました。例えば、現在高校2年生の生徒は、志入試を実施していない時に入学しました。しかし、学校長の志についての説明に深く共感し、それが入学の決定打となりました。彼は将来、医療の知識を持ち、途上国の医療に貢献したいという志を抱いています。彼は現在、“あだがくアンバサダー”として、当学園の広報部員として活躍しており、学校説明会を主催し、志共育の取り組みを積極的に説明しています。彼らがイベントを運営し、当学園の理念と入試のシステムを紹介する姿勢は、受験生と保護者にとって、学校の特徴や志共育の実践方法を具体的にイメージしやすくしています。この説明会はかなり好評です。

8年ほど前は、学校の宣伝に生徒を使うことは許可されていませんでした。以前は午前中の授業中に学校説明会を開催していましたが、その際に生徒に話をさせる提案もしました。しかし、生徒を宣伝に使用することは許可されませんでした。その考え方も一理あるかもしれませんが、受験を検討中の生徒や保護者は、実際の生徒の声を聞きたいと考えることでしょう。そのため、学校説明会は授業が実施されていない土曜日の午後に開催することにしました。開催時間を生徒が参加できるように調整すると、生徒たちは自発的に参加するようになりました。最初は生徒たちがパネルディスカッションを行い、志共育の活動内容を紹介しました。その後、生徒たちで様々な質問をし、それに対して他の生徒が答えたり、私たちが学校の特徴や課題について説明したりしました。この柔軟なパネルディスカッション形式が非常に好評で、説明会に参加していただいた保護者から、「しっかりとした内容で素晴らしい」という評価を多くいただいています。

以前は、私は生徒たちをフォローしたり、質問を促したりすることがありましたが、現在の校長はすべてを生徒たちに任せる方針です。生徒たちは足立学園に関するクイズを作成したり、校内にある自動販売機の数を当てるクイズを行ったりしています。全問正解した方には学園グッズをプレゼントしています。もちろん、この活動には入試広報部長がしっかりとサポートしておりますので、安心して取り組んでいます。

このような説明会を通じて、多くの生徒が当学園に入学しています。この取り組みは学校のプラス要素であり、人前で話す経験は貴重です。私自身、大学生の時に学会でプレゼンテーションを行った際、かなり緊張しました。若いうちからこのような経験ができることは、将来において非常に有益なものだと感じています。

これからも、志共育を実施し、意欲的な生徒たちが入学し、さまざまな志を持った生徒が当学園で学んでほしいと願っています。

オリンピックで金メダルを獲得し、恩師に感謝の気持ちを込めて金メダルを贈りたいという志で入学した生徒もいます。彼は柔道部のメンバーで、関東大会や全国大会で活躍しています。これらのクラブ活動の活性化も、志共育のプラスの効果となっています。

過去5年間で、学校は大きく変化しました。例えば、柔道、卓球、剣道など、さまざまな競技で全国中学校体育大会に参加しています。今年は初めて野球部も全国大会に出場し、バスケットボール部も関東大会に進出しました。最初は卓球などの競技を志す生徒が、卓球での個人技術向上だけでなく、団体競技でどう貢献するかを考えるようになりました。志共育の取り組みによって、生徒たちは自身の志をより具体的に考え、将来の方向性を見つけ出すようになっています。これによって、学校内外での活動が活発化し、生徒たちの成長が促進されています。

 

志共育の扉を開く

Q:足立学園の志入試は2020年入試から始まったとお聞きしています。その入試が始まってからの成果として、受験生増加のほかにございますか?

入試に特化し、面接も導入しました。さらに、小学6年生にとって堂々たる要求かもしれませんが、自分の志をアピールするための事前提出物として、エントリーシートを提出していただき、これを検討しています。

私が受験生や保護者の皆様にお伝えするのは、『ひと度、お子様と一緒にご自宅で考えてみてください』ということです。学校説明会の前、生徒と学校長は熟考し、志についての対話を行います。志の入試について話すと、小学6年生には『志なんかないよ』と言う子もいるかもしれません。YouTubeを視聴したり、ゲームを楽しんだり、テレビを観たり、外で遊んだりしている子供たちに志という言葉は遠いものに思えるかもしれません。しかし、保護者の皆様がお子様の輝く才能を一番理解しておられると伝えたいのです。例えば、お子様が小さな頃から電車に興味を抱き、見るだけでその電車がどこを走っているかを知っているなど、さまざまな才能を持つお子様がいます。保護者はこれらの才能を引き出す機会を提供し、自宅でそれを実践していただきたいと思います。もしも保護者がこのアプローチを理解していない場合、お子様を受験させることは難しいでしょう。しかし、『志よりも偏差値だ』と考えるご家庭もありますが、ここで賛同いただき、入学していただいた場合、私たちは共にお子様を育てるパートナーとしてお迎えします。志入試を通じて、このアプローチを導入することは非常に有益であると思っています。初めに試験を受けて入学した生徒に志共育を始めようとしていましたが、志を持った子供たち、志共育に賛同していただける子供たちが入学した方が良いとの考えから、入試の改革を行いました。志入試は特徴的な試験ですので、足立学園で学びたいと考えるご家庭に焦点を当てています。そのため、第1志望の方に限って志入試を受験いただいております。第1志望の方の数はおおよそ100人程度です。もともとの定員は140人ですが、第1志望の方が100人入学していただければ、これほど素晴らしいことはありません。現在、中学3年生はおおよそ180人、中学2年生は少ないですが150人、中学1年生は200人程度ですので、入学生数は多くなりました。志入試についても、最初はおおよそ100名からスタートし、去年は約140人の受験生が受験しました。これほど多くの方に志共育に賛同いただけていることは、非常に重要だと考えています。志入試は4年間で大きな成長を遂げました。異なるお子様たちは様々です。志そのものではなく、志に近いものを持っているケースもあるでしょう。この部分については、事前の説明でこのアプローチをアピールしながら、真剣に検討していただき、足立学園で更なる志を育んでいただきたいと思っています。



 

【段階的な志の育成と先進的教育手法による教育の未来】

Q:志共育において、さらに磨きをかけていくために、どんなことを今後検討されていますか?

最初は、私たち教員が成基総研の志共育講座を受講して、自らの志を立てる実体験に基づいて、子どもたちに同じ体験をさせたいと考えていました。しかし、私たちはただそれだけのことではないと気付きました。志には発達段階があるのではないかと疑問を抱くようになりました。

現在、私たちは中学1年生、中学2年生、中学3年生と段階を分け、志教育に独自のアプローチを加えながら指導を行っています。中学1年生は、歴史上の偉人たちがどのような志を持ち、どのような活動をしてきたのかを調査する課題に取り組んでいます。中学2年生では、自身の志を理解するテーマで、さまざまな職業の方々から話を聞く機会を設けています。さらに、福祉教育も導入し、パラリンピックの選手に講演してもらうなど、多様な経験を通じて志を育んでいます。中学3年生は、実際に外部で職業体験を行い、自らの志を達成するために必要なスキルを仕事を通じて身につけることが基盤となっています。

当学園は中高一貫校です。したがって高校受験の必要はありません。職業体験の実施時期は自由に設定できます。約20年前に一度職業体験を中断したことがありましたが、後に再開しました。職業体験を行う際には、受け入れ先を見つけることが難しいこともあります。地域を限定して体験を受け入れることにしましたが、その中で快く受け入れてくれたのは保育園でした。職業体験を受け入れると、補助金の対象になるそうです。今年度の業種については、選択肢が少なかったです。それでも、土木関係やIT関係など、様々な職種で体験を受け入れていただけました。また、学校の理事長は銀行出身であり、その関係から銀行業界の体験も行いました。さらに、ラーメン屋さんといった飲食業界でも体験を行っておりましたので、校長とともに子どもたちの様子を見に行くこととなりました。子どもたちはのびのびとした態度で接客を行っており、その姿に校長も私も感動しました。また、外部の仕事だけでなく、学校の先生としての体験も行う生徒もいました。私の仕事を実際に体験してもらうのです。学校内の防火・防災管理についても学んでもらいました。生徒たちは驚きと共に、 “先生がこんなこともしているんですね。” と驚嘆していました。学校の先生は授業だけを行っていれば良いと思われがちですが、実際にはそれだけでなく、様々な役割を果たしていることが改めて理解された瞬間でした。

 私たちは、このような発達段階に応じた教育システムを構築しています。それぞれの段階で、より一層の志を育むために取り組んでいく課題があります。また、教員として、適切なタイミングで教育コーチングの技術を習得する必要性を感じています。私たち教員が過去の教育手法をそのまま継承することは意味がありません。現代に適した声かけや、相手の潜在能力を引き出す力など、新しい教育手法を学び、子どもたちにより良い教育を提供できるよう努力しています。

志共育を通じて、子どもたちにいろいろな経験を積んでもらい、成長してほしい。それを教職員も一緒になって、寄り添って、みんなで学んでいきたい。そう思っています。

インタビュー日:2023年9月20日   場所:足立学園会議室にて
足立学園中学校・高等学校 副校長 髙井俊秀先生

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